第2回フォトエッセイコンテスト「わが家のお仏壇物語」
□金賞受賞作品□
「妻の両親」 
鈴木 猛(東京都・男性・49歳)
 僕は妻の両親を知らない。
 なぜなら、僕が妻と知り合ったとき、すでに妻の両親は他界していたから。
 やがて僕たちは結婚することになり、それを機にマンションを買ったのだが、新居に妻が運び込んだ荷物のひとつがお仏壇。
 正直、戸惑った。僕は一人暮らしが長かったが、両親は健在であり、自分の部屋にお仏壇を置いた経験はない。しかもフローリングに白い壁を施した洋風のマンションにお仏壇はミスマッチだと思った。
 妻も「洋風のお仏壇に買い替えましょうか…」と遠慮がちに、そして淋しそうに言った。
 とりあえず、ここに置こう、買い替えるのはいつでもできるからと現在置いてある出窓部分に置いた。
 僕はお仏壇にお線香をあげながら「はじめまして。僕が夫です。あなたたちの娘を僕が幸せにします」とご挨拶をした。
 新居に新しい家具が届き、おたがいの荷物が片づいてもお仏壇の置き場所が変わることはなかった。
 そして、すでに3年の月日が経つ。
 いまもそこに置いてあり、見慣れたせいかもしれないが、そこがいちばんふさわしい場所に思う。洋風のインテリアとの違和感もない。
 背中側には出窓のルーバーがあり、向かって左側にソファ、右にはチェスト、その上には金魚の水槽もある。決して落ち着く場所ではないので、妻の両親は不服に思っているかもしれないが、我が家の狭い住宅事情から我慢してもらうしかない。
毎朝お仏壇にお線香をあげるのは、いつしか僕の役目となった。
「お義父さん、お義母さん、きょうも健康で楽しく過ごせるように見守っていてください」と祈るのだが、妻とケンカした翌朝などは「あなたたちの娘はとても良い妻なのですが、ちょっと気が強いですね」などと、僕がお仏壇を通じてコミュニケーションをとっていることを妻は知らない。