第1回フォトエッセイコンテスト「わが家のお仏壇物語」
□田中佛檀(彦根・京都)受賞作品□
「一服どうぞ」
大西賢(東京都・男性・36歳)
 付き合っている彼女の家に、仏壇がある。彼女の祖父が祀られているらしい。私が育った家には仏壇がなかったし、その作法も知らなかったので、しばらくは仏壇のことは特に気にはしなかったのだが、なんとなく気になっていたので、彼女に仏壇の事を尋ねた。彼女の祖父がどんな人だったのか、知りたかったのだ。大好きな彼女の家族がどんな人なのか、例えそれが故人だったとしても知りたい。人は愛する者のことなら何でも知りたいものなのだ。彼女は言った。
「おじいちゃんは三十二歳で戦死してしまったのだけど、おばあちゃんととても仲が良かったみたい。煙草が大好きな人だったの」
 彼女が生まれる前に祖父は亡くなっている。だから彼女には祖父の記憶がない。それでも祖母を通じて亡き祖父の人間性と優しさは確実に伝えられている。祖父のことを語る彼女の眼は優しさに溢れていた。
 彼女の祖父が生きていれば、交際相手の私のことをどう思っただろう。私はそれを知りたいと思った。一般に、父親は娘の交際相手を快く思わないという。では、祖父は孫の交際相手をどう思うのだろう。喜んで迎えるのだろうか、それとも否定的な感情を抱くのだろうか。
 彼女の家族は仏壇をとても大切に扱っている。私が彼女の家に遊びに行くと、私は必ず仏壇のある部屋に通される。彼女たちにとって、仏壇も家族の一員である。いつもきちんとお供え物がしてある仏壇は、彼女の家族がお互いを愛し合っている証明のように思われた。
 私は彼女の許可を貰って、仏壇にお祈りさせて貰った。マッチでロウソクに火を灯したとき、なんだか祖父のくわえている煙草に火を付けたような気がした。祖父の大好きだった煙草。ふと、祖父と私が握手を交わしたような気がした―――。