第2回フォトエッセイコンテスト「わが家のお仏壇物語」
佳作受賞作品
「仏壇御膳」
加藤博子
(千葉県・女性・45歳)
 代々のご先祖様を祀る年季の入った位牌が並ぶ中、一柱の真新しい位牌が目に留まる。一昨年亡くなった父のものだ。その前には、彩りよく盛りつけされた三、四品のおかずとご飯。「はい、お父さん」と毎朝声をかけながらお供えする、母ご自慢の仏壇御膳だ。
 小さな肉屋を夫婦ふたりで切り盛りしていた両親は、40年余り三食を共に過ごしてきた。それだけに、一昨年急な病で父を失った際、母の落胆振りはひととおりでは無かった。近くに住む長女の私は、看病でやつれ果てた身体に栄養のあるものをと、あれこれ作って行ったが、「余って捨てることになるので、そんなに持って来ないで欲しい」と言われた。一人で食べたく無いし、食べても美味しくないと。それならうちに来ればと誘っても、それぞれの生活があるのだから、と首を縦に振らない。母は病人のように痩せてしまった。
 そんなある日、私の家でお茶を飲んでいた母がじっと何かを見つめていた。視線の先には小さな観音様と、お供えしたお膳があった。両親が働いている間、私の面倒を見てくれたのは祖母だった。その観音様は、巣鴨のとげぬき地蔵でお守りに買ってもらったものだ。大好きな祖母が他界して以来、私は観音様を祖母だと思って毎朝お膳を差し上げている。結婚する時も実家から連れて来た。「あんた、ずっとおばあちゃんのご飯作っていたんだよね」母はつぶやき、「お父さんのご飯も作ってあげなきゃね」と私に微笑んだ。
 翌日から母はせっせとお膳作りに励みだした。もともと調理師なのだから、包丁を持たせれば鬼に金棒、たちまち見事なお膳が出来上がる。そして母は、父と一緒にそれを食べる。40年そうしてきたように、今日も。