第1回フォトエッセイコンテスト「わが家のお仏壇物語」
|
||||
入選外優秀作
|
||||
「ペンと仏壇」
(新潟県・女性・57歳) 淡路けい子 |
||||
零細家内の大家族へ嫁いだ日、私が最初にしたのは、仏壇にお参りすることだった。 まだそんな時代であった。実家をあとにした際も、見守り続けてくれたお仏壇に、花嫁姿で手を合わせてきた私。 初めて参った婚家先の仏壇は、案外小さかった。 実家のそれは、母が分家に出る際持たされたもので、古いが大きく重厚感があった。 それに比すると可愛らし過ぎる仏壇。 がその前に座る度、次第に瑞々しい高揚感を覚えるようになった。 それから数年後、私は知った。家の仏壇は舅が懸賞小説に当選し、獲得した賞金で求めたことを。 道楽者で裕福な農家を出された大お祖父さんの元、苦労を重ねた舅。 そのなか作家になりたい! という青雲の志があった。そうして書き続けた小説、初めての賞金で買ったのが、家の仏壇である。 それゆえお参りする時、瑞々しい高ぶりが私にさえも、伝わってきたのだろう。 その父も今はもう、仏壇の中から微笑みかける人である。 「厳しいお舅さんだったよね」 「明治の生まれだったからな」 私の呟きに答える夫。彼の名は直木、父の夢であった直木賞から採ったらしい。 あれから以降、本格的に父が、小説に取組むことはなかったようである。私は思う、結局父は、家庭を選んでくれたのだと。 それで良かった! でなければ今私がこうして家族と巡る縁も、その前に座る度、清新な気持に身が引締まる思いにも、巡り合えなかったに違いないから。 『よみがえり』のようなパワーを貰える、不思議なお仏壇。 毎朝入れ替わり、家族が手を合わせて一日をスタートさせる。 父がペン一本で入れてくれた我が家のお仏壇は、一族みなの誇りである。 |
||||