第1回フォトエッセイコンテスト「わが家のお仏壇物語」
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入選外優秀作
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「エッセイ」
(神奈川県・男性・31歳) 山本拡幸 |
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この写真の仏壇にいる仏様は私の母です。うちは母子家庭だったため、この時のお葬式の施主は長男である私が努め、仏壇を購入しに行ったのも私でした。当時29歳でした。結婚していた私は27歳の妻と二人で仏壇屋さんへ・・・ 初めての経験で右も左もわからない状態ですから、ちょっと緊張しながら買いに行ったことが今でも思い出されます。 見た目にも若造だった私たちですから、店員さんも心得ていて初歩的なことから丁寧に説明してくれました。 長い時間のやり取りの中、店員さんは突然涙を流し始めました。驚いたのは私たちのほうです。見ず知らずの店員さんが自分たちを見て、泣いている。こんな経験は生まれて初めてです。店員さんは「すいません、すいません」と 涙をぬぐっていました。仏壇屋さんですからこういうことは日常茶飯事だと思っていました。当然、私よりも若いお客さんもいることと思います。涙ぐんでくれた店員さんは私の母よりも少し若いくらいのおばちゃんでした。 息子さんと重なってしまったのでしょうか。少し取り乱した後も丁寧に説明をしてくれ、最後に「内緒で割引しますね」とにっこりそう言いました。皆にそう言っているのかもしれませんが、私はこの店員さんが私たちに同情して、 若いうちから大変だろうと考えてくれて言ってくれた言葉だと受け取りました。 母のことはもちろん私たちのことも何も知らない赤の他人が、泣いてくれたことに素直に感激しました。同情というのは、同情されるほうにしてみれば、大きなお世話・煙たいもの、と思っていました。しかし29歳にして気持ちのいい同情というものがあることをこのとき初めて感じることができました。 |
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