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第6回わが家のお仏壇物語

金賞「嫁ぎ行く日の朝」宮岸 久美代(石川県・54歳)


文金高島田の姿に整った私は、両親に挨拶をしなければと父の姿を探した。

しかしどこにもいない。出発する時刻が迫ってくる。やがて親戚や近所の人たちが集り家の中が賑やかになってきた。

やっと父が現れた。

「お寺さんに行って、めえって(参って)きたぞ。ほれ、これを持っていけ」

父は赤い教本と綺麗な光り輝く真珠のお数珠を私に差し出してくれた。

小さい頃から朝夕のお勤めを欠かさない家で私は育った。大きなお仏壇の前に座ってお参りをするたび祖母に言われた言葉がある。

「辛いことや悲しいことがあった時ゃお仏壇に手を合わせよ。嬉しいことがあってもお仏壇や。仏さんは皆見てござる」

その祖母も私が高校に入る頃に亡くなってしまった。葬儀のあと、父は仏壇にすがるように毎日お参りしていた。

父は肉親の縁に薄い人であった。八才の時に自身の父親を失くし、やがて姉を亡くし、妹を亡くし、寄る辺のない心の置き所として仏壇にすがって生きてきたのだろう。

「さ、出て行けや。戻ってくるなよ。うちの仏さんと別れて向こうの家の仏さんに可愛がってもらえや。最後の挨拶やぞ」

私は父と並んで仏壇の前に座った。父がいつものようにお経を唱え始めた。

しかし、すぐに声は聞こえなくなった。やがて大粒の涙をぼろぼろこぼしながら言った。

「いつもいつも悲しい別ればかりやった。辛い別れのお経ばかり申しておった。ほやけど、今日は違う。嬉しい別れや。嬉しやなぁ」

父の泣く声は一段と大きくなり、花嫁姿の私も大泣きしてしまった。

弟と御仏供さんを取り合った幼き日の思い出を胸に、私は実家を後にした。

あの日から三十年の年月が経った。私は婚家の仏様に守られ幸せな日々を送っている。

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