専門紙「月刊宗教工芸新聞」が提供する
仏壇と仏壇店情報
第7回わが家のお仏壇物語
「お母さん、聡美が20歳になりましたよ。」
と、今年の成人の日に、振袖を着た娘と一緒に仏壇に手を合わせた。
母は、いつも
「さとが20歳までは、元気で生きなきゃね。」
と言っていた。娘が生まれて6か月で離婚をし、実家に戻ってきた私にとって、どれほど心強い言葉であったであろうか。まだ乳離れをしていないわが子を置いて働きに出た私は、おんぶ紐で孫を背負い家事をする母に助けられて、私は今日まで仕事を続けられたのである。
そんな母が、肺炎で入院したのは、5年前の1月であった。見舞いに行くと、ちょうどテレビで成人式のニュースをやっていた。それを見ていた母は、 「あと5年だね。生きられるかな」
と、言った。その時は
「何言っているの。そんなのすぐだよ。」
と、私は即座に答えた。私たち家族は、母の病状が進行しているとは、夢にも思っていなかったからである。しかし、坂を転げ落ちるように容態が悪化し、4月、桜が満開になるのを見届けるように息をひきとった。
「春麗良観大姉」
3月生まれで、桜の花見を毎年楽しみにしていた母にぴったりの戒名である。素敵な戒名をつけて下さった和尚様に感謝している。
母の一周忌の前に、小さな仏壇を購入した。私は、毎朝「今日一日を無事過ごせますように」と、仏壇の前に座り、手を合わせてから出勤をする。おばあちゃん子だった娘も時々、仏壇の前に座っている。きっと誰にも言えないことを相談しているのであろう。残された父は、仏壇の埃を払ったり、仏花の水を換えたりして、母の世話をしている気分を味わっている。
振袖を着た聡美の姿を一番喜んでくれているのは亡き母である。この写真が天国まで送れたらいいのに・・・