仏壇選びの達人

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第1回わが家のお仏壇物語

選外秀作「物の命」ゆはらきみこ(東京都・女性・60歳)


 今から20年前に中古住宅を買った。
 その頃30代の初めだった私たち夫婦は、独立させたばかりの事業のためにお金が幾つあっても足りない時期で、建替不能の12坪弱の古い家を購入するのが精一杯だった。台所の床が陥没しているというひどい家だったが、南向きで陽あたりも良く、二人の元気な子供たちともども、狭いながらもにぎやかに暮らすことができた。
 事業業績は伸び続けて社員も増えた。このまま順調に行くと疑いもしなかった時に暗転が来た。夫が急死したのだ。仏壇を安置した。古い家にはとても不釣合いな新品の大きな仏壇だった。
 歳月が流れて、家はますます古く雨漏りがひどくなった。いつの頃からか、娘をきれいな家から嫁に出してやりたいと思うようになった。建築基準法も改正されて、狭小の土地にも木造三階が建てられるようになっていたので、思い切って新築をすることにした。設計図の間取りの配置を何度も変更した。大きな仏壇の収まりどころがどう考えても出てこなかったのだ。最悪の場合は仏壇の買い替えを検討するとしても、決断が付かないままに仮住居に引っ越す日が来た。
 風もない穏やかな日だった。弟一家が手伝いに来てくれていた。全ての荷物が出払った後に、仏壇を毛布でくるみ厳重に紐をかけて二階の窓からゆっくりと降ろした。降ろし始めてすぐに解けるはずのない紐が緩やかにはずれていくのが見えた。スローモーション映画を見る様に仏壇は斜めに落下して木っ端微塵に砕け散った。皆が息をのんだ。
 私は事の成り行きを判断した。誰も悪くない、と私は皆に大声で叫んだ。新築の家に入った時の安置場所がない事をこの仏壇は察知したのだ。後の成り立ちがうまく行くように、この仏壇は物の命を自ずと放棄したのだ。私は体中の血がぞくぞくとして動けず、そして涙があふれて止まらなかった。

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