専門紙「月刊宗教工芸新聞」が提供する
仏壇と仏壇店情報
第5回わが家のお仏壇物語
今の仏壇は二代目である。平成五年、初代の仏壇に別れを告げた。初代の仏壇には祖父母の位牌が納められていた。古くからあった仏壇を法事のあった折、父が選んで買い換えたものが今の仏壇である。
「親父、ええ仏壇が買えたろうが。見てくれ。」
父は魂を入れてもらった仏壇に向かってそう言った。丁度町中が盆踊りで賑わっている頃だった。昼間から流れてくる音頭はセミの鳴く声と共鳴していた。
父が倒れたのはその仏壇が届いて一週間もしない内だった。お酒が一滴も飲めないのに父は若い頃から肝臓を患い、最期は肝硬変で倒れて二日後、あっけなくこの世を去った。まるで自分が入る仏壇を選んだようだった。
父が亡くなった一年後、私は離婚して実家に戻った。母子家庭になった私は二人の娘を必死で育てた。その結果、うつ病にかかり、今は自宅で静養している。死にたいと思っていた時、夢に父が出て来た。まだ小学生の私と父が手をつないで洞窟の中を歩いている。途中で父が手をほどきこう言った。
「晴巳、わしはここまでしか行けれん。あとはお前一人で行け。」
背中を押された瞬間目が覚めた。父は、お前にはまだこの世でやることがいっぱいあるのだと教えてくれたのだ。
あれから五年が経つ。新しい仏壇には祖父母と父の位牌が並んでいる。遺影の父はにこやかに笑っていた。きっと今も空の上から家族を見守ってくれているだろう。ありがとう、お父さん。私ももう少しだけ頑張るからねと仏壇の前で手をあわせて目をつむった。