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第8回わが家のお仏壇物語

金賞「お仏壇に祈る時」太田貴子(香川県・40歳)

甥っ子の涙を見た夜、私は叱りすぎた、と思いました。しかし、許せなかったのです。かつての自分と同じことをした、たった一人の甥のことが。

彼は小学4年生。ある日算数のテストを持ち帰り、彼は母親(私にとっては弟の嫁)とたまたま訪ねていた私に、97点のテストを誇らしげに見せました。しわのない用紙に美しい文字。私はとっさにこれは甥っ子の答案用紙でないと気づきました。彼の母親もまた、そのことに気づいていました。

名前の欄には消しゴムの跡が残り、このテストの本当の解答者の名前が透けています。

私と弟の嫁は同時に彼を叱りつけました。こんなことは絶対にしてはいけないことだと私は声を張りあげました。

彼は、うつむき、声をあげて泣き始めました。「どうしてこんなことをしたの?」と母親に問われると、彼は大きなうるんだ目で大人ふたりを交互に見て「お母さんを喜ばせたかったから」と答えました。

そのとき、私の目からも涙がこぼれました。9歳の少年がかつての自分に重なった瞬間でした。当時の私もまた小学4年生。私の母は、私と10も年の離れた3人姉弟の一番下の弟が生まれたばかりで、家事と育児に追われていました。周りからのサポートを受けられず、一人で必死に戦う母に同情心のようなものを抱いていました。

母を元気づけたい、母に誇りに思ってもらいたい、そんな一心で友だちの答案用紙を奪い、名前を書き換えました。百点のテストでした。

その夜、甥が仏壇の前で「ごめんなさい」と唱える姿を見ました。私もいっしょに過去の過ちを詫びました。何度も何度も「ごめんなさい」とくりかえす私を甥は不思議そうに見上げています。改めて私は彼の本当の点数を尋ねると69点という答え。「よく頑張ったね」。私は小さな頭に手を置きました。

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