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第8回わが家のお仏壇物語

銅賞「魔法の抽斗」丹羽惠子(新潟県・62歳)


大正末期に祖母が嫁入りした時には既にあったという実家の仏壇は、一体いつ頃のものであろうか。最近洗濯をしてすっかりきれいになったが、相当に古いことは確かだ。

この仏壇の、ハスの花が浮き彫りになった抽斗には色々な思い出がある。子供の頃のお正月、私達三姉妹が晴れ着姿で揃ってお参りをすると、祖母はうやうやしくこの抽斗からお年玉を取り出し渡してくれた。前々から用意されているせいか、お年玉はいつも少しだけお線香の香がした。

家は古い商家だったから細くて急な階段がいくつもあって、慌て者の私はよく階段から落ちてたんこぶをこさえた。泣きべそをかいている私に、祖母はハスの抽斗から、大きなハマグリの貝殻に入った油薬を取り出し塗ってくれた。匂いの強烈な黄色の軟膏は、富山の薬売りのおじさんが紙風船と共に持って来たものだった。痛みよりたんこぶの大きさに驚いて泣き続ける私に、祖母は幼少時の父がこの抽斗にこっそり蝉の抜け殻や小さな蛙を隠した話をしてくれた。それを見た祖父が腰を抜かした様子を身振り手振りで話す祖母の姿に、私はいつの間にか笑い転げていた。

小学校の通信簿は始業式までここで保管されたし、使いきった図書館の貸し出しカードも学級委員のバッジもここにしまわれた。大切なものはみな仏壇のハスの抽斗に入れたものだった。

あれから半世紀以上経って祖母も父もあちら側の人となってしまい、抽斗の中もすっかり片づけられて、今はお経の本とお線香しか入っていないが、たまに思い出してそっと開けると、抽斗の魔法で私はたちまちあの頃に戻れるのである。

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