専門紙「月刊宗教工芸新聞」が提供する
仏壇と仏壇店情報
第8回わが家のお仏壇物語
姪が3歳の頃、私の母と一緒に仏壇に手を合わせていることがあった。
「じぃじの最後の患者さんはあなただったの」
私の父は、開業医だった。体調を崩してからは、代わって私の兄が院長になった。父はほとんどの時間をベッドの上で過ごしていた。
る日、当時5カ月だった姪が、兄が不在だった日曜日に、鼻が詰まってとても息苦しそうにしていることがあった。父は立つこともままならなかったのに、壁や手摺りをつたって診察室まで行き、姪の鼻が通るようにした。その時の父は病人ではなく、手先もしっかりしていて、医者の顔になっていた。姪は楽になったのか、すやすやと気持ちよさそうに眠りについた。姪の寝顔を見た父の、安心したような笑顔が、今でも目に焼き付いている。
それから、3カ月後、父は亡くなった。
姪は、写真の中のじぃじしか知らない。けれどばぁばから聞かされる話から、じぃじがどれだけ自分を大切に思っていたかは理解しているようだった。姪は、仏壇に、小さな手を合わせて、呟いた。
「じぃじに、今、会いたかったよね」
姪の言葉に胸がいっぱいになって、仏壇と、母と姪の背中が、じんわりと滲んだ。
あれから数年たって、弟もでき、すっかりお姉ちゃんらしくなった姪が、将来、医者になりたいようなことを言ってきた。
なれるかわからないけどぉ……」
自信なさげに言う姿がかわいくて、仏壇の父に、真っ先に報告した。
そして、中学生になった今、なりたい職業はくるくる変わり、仏壇への報告もくるくる変わる。彼女なりに、悩んでいるようだ。
でも、どんな職業でもいい。じぃじの最後の患者さんであったことを忘れずに、人を助けられる人間になってくれれば。そうだよね、お父さん。