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第10回わが家のお仏壇物語

金賞「仏壇でお茶しませんか?」鳥羽恵美(東京都・35歳)


「あら、ごめんなさいね。今、叔母さんとお茶をしていたのよ。」

あれは今から何年前のことだろうか。いつものように、隣りに住む祖母宅を訪れた時のこと。何度チャイムを鳴らしても、祖母が出てこない。高齢で足が悪いため数分は待ってみるのだが、それにしても応答がない。どこか出かけたのかな。そう思い、もう帰ろうとした時、家の中からようやく声が。

「よっこらしょ。うふふふふ。誰かしら。」

そしてドアを開け、祖母は言ったのだった。

私は目が点になった。というのも、その叔母はもう何十年も前に亡くなっている。どういうこと?おそるおそる、聞いてみる。

「おばさんって、あのお叔母さん?」

「そうよ、仏壇でね。一緒にお茶しておしゃべりしていたの。」

どうやら祖母にとっては日常のこと。母親のように慕っていたという叔母に、他愛もない話から相談事まで、今でもよくお話していると嬉しそうに言った。

私は幸せなことに祖父母が長く健在だったため、仏壇そのものに馴染みがなかった。お彼岸やお盆の時にお参りをする程度。 それもその仏壇は、玄関から一番遠い右奥の、窓のない小部屋にある。薄暗く、それだけでも仏壇は遠い存在だった。

だから余計に驚いた。おばあちゃんがあそこで、お茶をしているなんて。姉にも報告し

「おばあちゃんらしいよね。」 二人で笑った。

しかし、その祖母が昨年亡くなった。倒れてから1年半の入院生活。覚悟は次第にできていたはずだったけれど、いざ亡くなって、話したいのにいない。寂しい……。

そんな時ふと、思い出した。 そうか、おばあちゃんはそういう時、仏壇でお茶をしていたんだな。今になって祖母の気持ちが理解できるようになった。

仏壇も明るい陽の入る部屋に移したことだし、なんだか気恥ずかしいけれど、言ってみようかと最近思っている自分がいる。

「おばあちゃん、今度一緒にお茶しませんか?」と。

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