専門紙「月刊宗教工芸新聞」が提供する
仏壇と仏壇店情報
お知らせ
江戸時代は現代見ることのできる仏事が広まった時代であり、その代表的な仏事がお盆であり、天保時代(1830年頃)に成立した『江戸府内絵本風俗往来』には江戸のお盆の様子が詳細に描かれています。
盆提灯に関しては次のように記述を見ることができます。
「大中小の髭骨(ひげぼね)提灯は瓜形丸形枕形瓢箪形の異種ありて 大は二尺餘 中は尺八尺五尺三 小は尺以下なり 又子供の翫(もてあそ)びの小形瓜丸の二種にして 畫は紅彩色且藍畫にて人物山水花鳥草花をえがく 又白張に井桁に立花を圖し 髭題目を書きしは法華宗向の品にして散りし蓮華を畫くは諸宗向なるべし 町方にては江戸市中裏長屋の其日を送る生計(くらし)の家にても必ずともす 此の提灯を売る商人 六月の末より七月朔日迄諸方に幾人となく売りあるく ちやうちんやァ盆ぢやうちん ちやうちんやちやうちんと呼び来たる 又問屋ありて店一杯にうつくしき絵提灯をつるして商ふ」
現在は盆提灯というと壺型や大内行灯が主流ですが、江戸時代の盆提灯は「瓜形丸形枕形瓢箪形」と記されています。挿絵と付き合わせて見ると、手に持つ盆提灯もありますが、これらの製品は説明を読んでいる限り、道行きの普通の提灯と区別されるものです。火袋に描かれる絵は「人物山水花鳥草花」のものが多く、井桁(#)に髭題目(南無妙法蓮華経)と書かれるのは法華宗、蓮を描くものは諸宗のものとされていました。盆提灯売りは「ちょおちんや 盆ちょうちん ちょうちん ちょうちん」と言いながら売り歩いたようです。
また、『江戸府内絵本風俗往来』の挿絵として見える盆提灯には切子灯籠もあります。
次に「七月朔日の夜」と題された様子を見ることにする。
「年々七月朔日の夕より江戸市中毎戸盆提灯を店の軒下につる大店は 大瓜形の白張をともす大伝馬町の如き大店のつらなる処は 戸々白提灯なり 又切子灯籠をともす店もあり 今夜より八月五日或いは七日迄なり 此の中毎夜点して佛の供養とす 八月以降は無縁の佛に供すといふ」
江戸時代の盆提灯は基本的に家の中に点すものではなく、軒下に吊すものであったようです。江戸市中の商売の大きな店(大店)の軒先には大瓜形の白張提灯が点され、切子灯籠を吊す店もあったようです。
盆提灯を吊す期間は7月朔日(ついたち・1日)から8月5日あるいは7日までであり、7月一杯は佛の供養、8月以降は無縁の佛の供養のためでした。ここでひとつ重要なことは「佛」が先祖や無縁の霊を表す言葉として使われていることにあります。お盆は先祖供養、無縁佛のためであり、佛とは如来や菩薩をさす佛ではなかったのです。
※宗教工芸新聞 2004年(平成16年)4月号 住田孝太郎