専門紙「月刊宗教工芸新聞」が提供する
仏壇と仏壇店情報
第1回わが家のお仏壇物語
「今日もみんなが幸せに過ごせますようお見守りください」
毎朝、一番茶を供え灯明をともし、お線香を焚くのは、母が亡くなってから私の役割となりました。お仏壇デビューなのです。仏壇の前に座りご先祖様と心の中で会話をします。とりわけ義父母には家族の近況を報告することにしています。
生前の義父は気難しく、口数の少ない人でした。孫のために野菜を育て、泥に汚れた手は竹の節のようになっていました。亡くなって八年が過ぎ畑には草が繋り、栗の木は枝が伸び放題です。「今年から二人とも勤めを辞め、畑を守っていきますよ。安心してください」
義父が植えていた「利平栗」は市場で一番の高値がつく幻の栗だったのです。今になって義父の先見の明に驚かされます。生前は心を交わすことが出来なかった舅と嫁でした。でも、仏壇の前では、人生の先輩に対する尊敬の念が溢れてくるから不思議です。
義母は明るく社交的な人でした。家にいるより外出するのが大好きという人でした。いつの頃からか外出を嫌がるようになり、台所にも立つこともなくなりました。突然食欲が無くなり、肝臓癌が発見されたときには既に末期でした。看病させることもなくあっけないほど美しい旅立ちでした。
仏壇に手を合わせるとき、もう少し長生きして、孫たちの結婚を見守ってほしかったとしみじみ思うのです。「今も見守っているよ」そんな声が仏壇から聞こえてきそうな気がします。
義母が亡くなる一年前に、一緒に植えた薔薇の花が十一月の命日まで咲き続けてくれました。白とピンクの「プリンセスモナコ」という薔薇です。「私のバラ」と義母は自慢げに言っていました。三回目の命日にも仏壇に供えましょう。義母もおめかしして、きっとこちらへ出向いてくれることでしょう。
仏壇は天国とこちらとをつなぐサロンなのです。