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第1回わが家のお仏壇物語

選外秀作「お仏壇と私の幸せな時間」長谷川和夏子(滋賀県・女性・45歳)


 私が大学を卒業する年に母が亡くなった。私の母の死後、一人暮らしを始め、父とは生活を別にした。父に墓を建てる余裕はなく、母の遺骨は公の施設に預けられた。母が生前に買い求めていた小さな仏壇は、父が住まいする部屋に納められ、アウトローな生き方をした父ではあったが、その仏壇に花を欠かすことはなかった。
 母の死から二十年、父も旅立った。突然の死だった。付きっきりで看病した母の場合と違い、父の死は呆然とさせた。無宗教で済まそうとした葬式だったが、親戚の助言で、仏式でとり行い、僧侶のお経によって、私は悲しみの淵から救われた。
 兄弟も子供もない私は、主人に手伝ってもらいながら、父が残していった課題を一つ一つ解決していかなくてはならなかった。その煩雑な作業が終わった後に、私の元に残された遺骨と位牌。よく、墓も仏壇もいらないと言い放つ人がいるが、その人達に想像してもらいたい。弔問客が途絶えた後、静まりかえった部屋に残された、納まり場所のない位牌と遺骨の寂しい佇まいを。
 私の主人は学生時代に父を亡くし、就職後、初ボーナスで墓を建て、若き日から仏事をこなしてきた人だ。「私の親のことで迷惑をかけたくない」という私の言葉に「迷惑とはなにごとだ」と怒り、「あたりまえのことや」と、私の両親の墓を建て、仏壇を買い、法事を行ってくれた。そして、昨年から、主人の母と同居することになり、それに際して、お世話になっているお寺のご住職の「両家どちらのご先祖も、先立たれ方も、共にあなた達を見守っておられるのですから、一緒にお祀りしましょう」という言葉に従い、わが家の仏壇には両家の位牌が納められることになった。
 私は、その賑やかな仏壇の前に座る時、無邪気な子供に帰り、自然と穏やかな笑顔になる。そして、そんな大切な場所が家の中に持てた幸せをしみじみとかみしめるのだった。

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