専門紙「月刊宗教工芸新聞」が提供する
仏壇と仏壇店情報
第5回わが家のお仏壇物語
飛騨の小さな山村に、私の生まれ育った実家がある。毎日、御嶽山・乗鞍岳を拝める、自慢の故郷である。
昭和三十九年、実家に花嫁が来た。近くの村同士の婚姻が多い村で、兄嫁は岐阜の町娘だった。その白い手足と華奢な体付きを見て、「あれでは百姓は出来んやろう?」と噂されたという。
ところが、兄嫁は田畑の仕事も村の付き合い方も日を追って身に付け、四人の子どもにも恵まれた。兄嫁と入れ違いに家を出た私は、実家に帰る楽しみが増えた。
兄嫁は私より一歳下で大らかな人だった。親には話せない悩み事も聞いてくれた。「そんな事は大した事ではない。大丈夫」すっかり太めになった兄嫁にそう言われるとどんなに心強かったことか。
ナスやかぼちゃ、インゲンなど幼い頃から食べなれた野菜の煮物がとても上手だった。
「女小姑鬼千匹」の諺に反して、姉妹のようになれた兄嫁は、ずっと実家を守って居てくれると信じていた。
平成十九年の秋、兄嫁に末期ガンが見つかり、翌年の初夏に逝った。六十四歳だった。「嫁が命」と言われていた兄は、しょげ返り仕事もせず泣いていると姉から聞いた。遠くに嫁いだ私は、ただおろおろと案じていた。
数ヵ月後、兄から電話が入った。
「あれはなあ、仏壇を買い換えたいって箪笥貯金をしていたんや。沢山貯めとったぞ」
兄の声が弾んでいた。
兄嫁の一周忌には、古い家がびびる程の立派な仏壇が入っていた。
「兄ちゃん、もう泣かんでいいのか?」
つい、兄をからかってしまった。
「なあに、あれはこの仏壇になって、いっつも俺を見ておる。もう、寂しゅうないぞ」
兄の顔に笑いが戻っていた。兄嫁を慕う人からの供物が絶えないと見せてくれた。