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第5回わが家のお仏壇物語

佳作「我が家のご先祖さん」丸山幸代(大阪府・62歳)


 三十年前我が家に主人の両親と、ご先祖さんが引っ越してこられました。

 ご先祖さんの御世話は義父母が行っていましたが、朝夕の食前の読経は義父の日課でした。

 この頃結婚八年目の私は、小学生の娘と三歳の息子を義父母に託し、毎朝読経とお香の香りを背にして仕事に。

 休日の朝の食事は隣室からのお香の香りに浸り、義父の「般若心経」をゆっくりと聞いています。

 しかし同居するまで、この度胸を耳にしたことがない私や子供たちには「はんにゃはらイタ」としか聞き取れず、くすくす笑っていました。おまけに途中に必ず入る、咳払いの場所も決まっていたので「もうすぐよ」と、子供達が待ち構えていたのも休みの朝の思い出です。それらの幸せなひと時は、ご先祖さんからの贈り物だったのでしょう。

 お線香はいつも二人で出かけて選んでいました。でも十五年前に義父は他界、ご先祖さんのお世話は、九十歳をとっくに過ぎた義母が今もがんばっていますが、日増しに俯いて歩くようになりました。そこで、私がご先祖さんのお世話をさせていただくことに決めました。

 三十五年間、保育士として勤めていた私も、今では専業主婦、家族構成も変わり曾孫が誕生。

 小さな子供達にとって、ご仏壇の諸々がおもちゃと成っていて、お線香の香りは、洗剤などの、香りのように感じているのかもしれません。

 先日そのお線香を購入、胸の奥底に母の愛用していた、白檀の扇子の香りが残っていたのか、手にはその香りのお線香が。

 そして、この歳にして恥ずかしい事ですが、初めて自分からご先祖さんと、義父への蝋燭を灯し、お線香を立て、義父の読経のさわり「まーかはんにゃーはらみた……」と、真似ながら、手を合わせました。

 現在の義母は、火・金曜日にデイサービスを受けています。私はこの日を待って、ご仏壇の前に座り、誰が見ているでも無いのですが、照れくささを感じながら、お線香の香りに癒やされています。

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