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第5回わが家のお仏壇物語

佳作「故人との内緒話」折原 杏奈(埼玉県・24歳)


 盆や彼岸など、仏壇に向き合う機会は多い。細長く立ち上る二本の線香の煙。静かな和室に響くお鈴の音に耳を澄ませて、そっと遺影に手を合わせる。目を閉じた私はいつも、心の中で色々なことを話しかける。この頃家族にあった出来事、世間を賑わせているニュース、亡くなった家族が気にかけていそうな様々なことを。真っ暗な世界の中で、見えないはずの故人の姿を思い浮かべて、近況の報告をする。そして最後は、「どうか生きている家族を温かく見守っていてください。」と祈るのである。誰に教えられた訳でもない。他の人は手を合わせる時にどんなことを考えるのだろうと不思議に思ったこともあるが、私は幼い頃から、仏壇に向き合う時にはそうするようにしていた。身近な存在であった母方の祖父、父方の曾祖母と祖父が亡くなってからは、以前よりもずっと話しかける時間が増えたように思う。

 私は人に気持ちを伝えるのが得意ではない。生きている家族にも、迷惑をかけたくないと思って本音を隠してしまう。けれど、故人には家族にも内緒にしていることも話すことができる。「実は、最近こんなことで悩んでいてね。」と、思うままに自分の気持ちを伝えると、不思議と受け止めて貰えた安心感が胸に残るのである。故人が語り出すことはない。けれども、「うん、うん。」と頷いて貰っている気がする。そうして、「お話し」を終えると、「よっしゃー、また頑張ろう!」と、お腹の底から力が湧いてくるのである。

 故人と向き合うあの静かな時間は、不思議なひと時である。頭の中でごちゃごちゃになった気持ちや考えも、遺影に手を合わせて目を閉じた後にはすっきりしている。故人が、悩み事などでできた心の結び目を、解いてくれているのかもしれない。

 これから先も、この「お話し」の時間を大切にしたい。目には見えない形で、故人と通じ合えているような気がするから。

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