専門紙「月刊宗教工芸新聞」が提供する
仏壇と仏壇店情報
第11回わが家のお仏壇物語
「どうぞ、手を合わせてください。」スマートフォンにメッセージが流れる。
沿岸部にある小さな町で私は生まれ育った。
広い仏間に、立派な仏壇。毎日毎日、両親が手を合わせる姿を真似ながら私と姉は育った。
しかし、もうその仏壇はない。
実家も、生まれ育った大好きな町も、もうそこにはない。
8年前の3月11日東日本大震災。大津波は、全てを飲み込んだ。街は悲しみに震え、生活は一変した。ご先祖様の位牌だけは、両親が見つけ出し、その日から、仏壇のない位牌に手を合わせる両親の姿を見続けてきた。
「命をお守り下さりありがとうございます。」
位牌に手を合わせる両親の姿が今も忘れられない。
月日は巡り、両親は、仮設住宅暮らしを経て、新しい街で生活を再建した。新しい仏壇にご先祖様の位牌を納める事が出来たのは、あれから6年が経った冬であった。
姉は結婚し、今は、海外で暮らしている。先に嫁いでいた私は、隣町で生活を再建し、私たち姉妹がご先祖様に手を合わせる事は、年に数回だけになってしまった。
そんな、8月のある日、家族で共有している、スマートフォンのアプリにメッセージが流れた。ピンポーン。
「みなさん、こちらはお盆です。ご先祖様を無事お迎えしました。」
「どうぞ、みなさん手を合わせてください。」
仏壇の写真とメッセージ。送り主は、父であった。
私は、“クスっ”と笑いをこらえた。
カタチは変わっても、私たち家族には変わらないものがそこにある。
それは、ご先祖様の仏壇に手を合わせ、想いを合わせるという事。
遠い海の向こうで、同じように“クスっ”と笑いながら、手を合わせる姉の姿が浮かんだ。
スマートフォンに写る、仏壇の中の祖父母の写真も、“クスっ”とはにかんだ笑顔に見えたのは、私だけだろうか。
「ご先祖様、毎日家族をお守り下さりありがとうございます。」
スマートフォンの仏壇の写真に、今日も変わらず手を合わせる。