専門紙「月刊宗教工芸新聞」が提供する
仏壇と仏壇店情報
第11回わが家のお仏壇物語
「ちーん」
「まめちゃん、買ってきたよ。お菓子食べて下さい」
小さな手が小さな仏壇に向かって手を合わせている。
この場面の数時間前、三才の娘がお菓子売場へ一直線に走り「まめちゃんのお菓子。まめちゃんのお菓子」と小さな籠を握りしめ、お菓子を二つ籠へ入れた。「お菓子二つもいるの?」私は娘に尋ねてみた。「これは南無南無になったまめちゃんの分だよ。悲しむでしょ。私とまめちゃんの二つ買うの」とほっぺを赤く膨らませ少し怒っていた。まめちゃんとは娘の前に亡くした赤ちゃんのことだった。妊娠三ヶ月で天国に旅立ってしまった赤ちゃんを「まめちゃん」と呼んでいた。自分の手で抱くことが出来なかった我が子を悔やんでも悲しんでも帰ってこない。毎日、小さな仏壇に手を合わせていた私の後ろ姿を娘は小さな頃から見ていたようだ。娘が仏壇に向かうようになったのは娘が一才半の頃だった。「ちーん」と微かに鳴るりんの音にびっくりして仏壇のある部屋へ向かった。すると目の前にはまだヨチヨチ歩く娘の姿があった。一生懸命に数珠を手に巻き付け、りんを鳴らして何かを喋っている。「ムニャムニャ」喋っている言葉は聞き取れない。その娘の姿に思わず微笑んだ。赤ちゃんの死からというもの自分を責める日が続いていた。しかし、娘が仏壇に向かって喋る姿を見ていると自然と「お母さん、悪くないよね」と亡くなった赤ちゃんと会話しているようにさえ思えてきた。
私や夫以外の娘がこうして仏壇に向かってお喋りしてくれる事がこんなにも今の私を支え、救ってくれるとは思ってもいなかった。今日も三才の娘は小さな仏壇にお菓子を添えて、お喋りしている。「ありがとう。二人ともママのところに来てくれてありがとう」私は娘を抱き締め、小さな仏壇の前で今日も一緒にお喋りする。