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第2回わが家のお仏壇物語

佳作「わが家のお仏壇と母」岡田絵美子(東京都・女性・65歳)


 わが家のお仏壇は信心深い母がずっと守って来た。子供が誰か付いて行ける時も行けない時もお彼岸には、きっと墓参りに行った。
 その母が昨年、下から出血があって、検査と放射線治療の入院中に、まだらボケになってしまったのだ。
 近くの病院へ移し、兄弟で週に二日とか三日ずつ交代で、連れ出して、二時間ぐらい家で過ごさせる。ボケの進行を少しでも止めたいからだ。
 もう子供達の顔や名前も時々しか判別できなくなっているのに、我家へ入るや否や真先に仏壇へ向かう。毎日、半世紀も行なって来た習慣なのだ。
 三月三日には病院にも家にも桃の花を飾り、花の好きな母は大層喜んでいた。家へ入るや否や、相変らず真直にお仏壇に突き進み、自分でマッチをすって、お明りを上げる。
 ―ご先祖様、どうか家族を、お守り下さい。でも、生きているのに疲れたから、お迎えに来て下さい―なんぞと言う。
 疲れる、と言いつつも、病院から片道二十分の道を、杖をつき、私に抱えられながら。
―ご先祖様を、お参りしなければ―
と懸命に歩く。
 病院で車椅子を推めるが、益々、歩けなくなってボケが進みますから。まだ、まだ歩かせます。と抱えて歩く。
 半ばボケても半世紀も続けた仏壇に向かう習慣は忘れぬ母に涙する。
 仏壇の左に桃の花を飾って。

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