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第2回わが家のお仏壇物語

佳作「祖母と仏壇」臼井泰祐(東京都・男性・27歳)


 九〇代の祖母は今まで何人もの人々と死別している。そして、私は祖母のこれまでの人生を考えて、こう思う。死者は遺された者に勇気とやさしさを与えてくれている。
 以前、祖母は仏壇の上の祖父と父の遺影を眺め、毎日愚痴をこぼしていた。「あんたたち、何で私をおいて先に逝ったんだ」。父が亡くなった時、祖母はがっくりと肩を落とした。
「おじいちゃんは私より年上だから、先に旅立たれても覚悟はできている。でも、まさか息子が先に逝くなんて思ってもみなかった」。
 肉親と死別して間もなくの頃は、仏壇に向かうとしきりに悲しさがこみ上げてくる。祖母が父を亡くした時の落胆ぶりと言ったら、なかった。食事は細くなり、体力は日増しに衰え、あげくに緑内障を患った。手術を拒んだため左目の視力をほとんど失った。生きがいだった編み物もできなくなり祖母はただ生きているだけ、と嘆くことが多くなった。
 抜け殻のようになった祖母は、足腰も弱くなり、床で転んで圧迫骨折を患った。誰しも祖母は寝たきりになると思った。しかし、そうはならなかった。そして、今でも健在だ。そんな祖母を支えているのは、やはり、祖父や父が草葉の陰から家族を見守ってくれているという、今は亡き最愛の人たちへの思いではないだろうか。寝たきりから立ち直るとき、仏壇を拝むんだ、という一心で祖母は再び自分の力で歩き始めたのだ。
 仏壇はこの世とあの世をつなぐ窓口だ。死者は仏壇に生きていたときと同様のぬくもりを宿している。祖母はきっと仏壇から、父たちのやさしさや愛情を受け取り、生きる糧にしているのだ。
 そして、仏壇に並々ならぬ感情を抱くのは祖母だけではない。私も仏壇を拝む度に父の面影がありありと目に浮かぶ。思わず熱い感情が込み上げてくるのだ。

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