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第12回わが家のお仏壇物語

銅賞  「ごちそうは、モクモク」 丸山ゆかり(静岡県・30歳)

「おじいちゃんのゴハン、もう下げちゃうの?おじいちゃん、可哀想だよ!」
仏壇に供えた白飯を三十分足らずで下げた母を私は責めた。
大好きな祖父が亡くなって二か月。毎朝、仏壇に白飯と水を供えるのは私の仕事だった。
「おじいちゃんの一番のご馳走はね、炊き立てのゴハンからモクモク立ち昇る湯気なの。だから、湯気が立たなくなったらおじいちゃんは、『ご馳走様でした』をするのよ?」
母は苦笑しながら幼い私に説明した。
「おじいちゃん、湯気だけじゃお腹いっぱいにならないよ!だっておじいちゃん、いつもゴハンはお代わりしてたもん!」
祖父は副食より、白いご飯が何よりも大好物だった。
「大丈夫!湯気の中にはユカリや、ママやパパのおじいちゃんに対する愛情がいーっぱい詰まっているんだから。それはもう、おじいちゃんが食べ切れないくらいいっぱいにね」
母はニコニコと答えたけれど、私は納得しなかった。
こんな小さな仏飯器に盛った僅かなご飯では、少しの湯気しか上がらないし、瞬く間に消えてしまう。だから、私は……

「ユカリ!何してるのっ?炊飯器がないと思ったらっ」
「だって、これならいっぱい湯気が立つから、おじいちゃんもお腹いっぱい食べられて、喜ぶかなぁって…」
鬼の形相で母に怒鳴られ、半泣きでしどろもどろに答えた。
何と、私は仏前にそのまま置いたのだ。炊き上がったばかりの五合分の白飯が入った炊飯器を。蓋を全開に開け、モクモクと盛大に湯気を立ち昇らせて。
「…そうだったの。ユカリは、おじいちゃん想いの優しい子だね。きっとおじいちゃんもおいしい、おいしい、お腹いっぱいだって、とっても喜んでいるよ」
鬼から仏様のように優しい笑顔へ変わった母は、私をギュっと抱き締めた。

炊き上がったばかりの炊飯器の蓋を開け、モクモクと威勢よく立ち昇る湯気を見るたび、今でも思い出す。六歳の小さな私が、五合分の湯気を祖父に供えたダイナミックな出来事を。

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