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第12回わが家のお仏壇物語

佳作「そして私もまた、仏壇に話しかけていた」富永藍子(神奈川県・30歳)

今でも、亡くなった祖父が夢に時々出てくる。
そして私は、今でも思い出す。
お墓や仏壇を見るたびに、「心の中で手を合わせとればええ」と言った祖父の言葉を。
毎日欠かさず仏壇と神棚に手を合わせる祖母とは正反対に、祖父が手を合わせているところを見たのはただ一度、法事のときだけだった。
そのとき、祖父がどんな想いで手を合わせていたのか、今はもうわからないけれど。
亡くなった祖父は大正生まれ。実家の醤油屋を継ぎ、弟妹を養ってきた。
というのは表向き。町一番のモテ男で、その美男子ぶりは有名だったらしい。衛生兵として戦争を経験し、終戦後はあちこちの家から「ぜひうちの娘の婿になってほしい」とお呼びがかかったそうだ。
わかる。
だって祖父は私から見ても男前だった。
それは見た目だけではない。
若くして両親を亡くし、年端もいかない青年は急に一家の大黒柱になった。
仏壇に手を合わせる時間があるなら働く。
仏壇に手を合わせる暇があるなら弟妹に時間をかける。
けれどその裏には、仏壇の前に座ることで、両親を思い出し、寂しさに心を持っていかれそうになることが怖かったのかもしれない。
けれど私は、それでもかっこいい祖父しか見たことがなかった。
祖父は最期の最期までかっこよかった。
誰にも迷惑をかけず、泣きも喚きもせず、弱音も吐かず、苦しまずに祖父は人生を終えた。
祖父の初七日、祖母と一緒にお経を詠み上げたとき、ああそうか、私は今おじいちゃんにお経を詠んでいるのか、こんな気持ちで手を合わせる日がくるなんてと、急に寂しさと同時に不思議な気持ちになった。
「あんたはお経が上手な」と祖母が言う。
ねぇ、おじいちゃんもそう思う?
答えは返ってこない。
仏壇の前に座ると、こうやって話しかけてしまうものなのかもしれない。そして私は、仏壇に手を合わせる意味を知る。

 

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