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第12回わが家のお仏壇物語

佳作「お仏壇に祈る時」板倉仙祐(愛知県・59歳)

 

仏壇はその家のメモリーボックスだ。
私が中学生の頃の話である。
家に昔からあった仏壇は老朽化がひどくなり、買いかえる事になった時の話だ。
それまでは、
「位牌の数が多くて仏様の姿が見えん」
という有様で、古い位牌は一つにまとめてもらおうという事になった。
母が言うには、
「居候の位牌が多かったんだよ」
「こりゃあ、一体どこの誰だ?」首を捻るような物が十人以上あったのだ。
今は違うが、わが家は二百年以上続いた商家で、池田屋という屋号を持っていた。
母が祖母から聞いた話では、
「居候がしたかったら池田屋さんに頼めば何とかなるぞ!」と揶揄される事もあったそうである。そんなに羽振りが良かったのか?
どうやら、そうではないようだ。仏壇の奥から代々の借用証文が大量に出てきた。
「借りました」という物もあるが、「貸しました」という物の方が多いのだ。しかも棒引になっていない…。貸し倒れ、取り立て損である…。
「お人好しすぎるだろう!うちのご先祖さん達は!!」
他人の借金を払っている場合もある。家族全員で苦い笑いを通りこし大笑いだ。居候の位牌なんか置いておかなくてもいいだろうと思ったのだが、父が言った。
「拝んでくれる人が一人もおらんじゃあ、哀れじゃないか、もう永いこと一緒に拝んできたんだから、この人達もご先祖様だよ」
母もうなづいている。
「まあ、位牌の居候は飯を食わんしなぁ」
家族で爆笑である。
そんな訳で現在も居候さん達はご先祖様と一緒に拝まれているのだ。
居候さん達の処遇を決めた父は昨年秋に九十五才での大往生となった。
「先に逝っている居候さん達が恩を感じて世話をしてくれていると良いけどな」
「好きだった酒を飲みながら説教をしているんじゃないか、酔うと冗舌になったからなぁ」そんな他愛のない話を兄と仏前でする。父は写真と同様に「あの世」とやらで笑っているに違いない。

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