仏壇選びの達人

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第12回わが家のお仏壇物語

佳作「家族の歴史を刻む仏壇」菊池陽子(東京都・56歳)

「おじいちゃん、おいしいお菓子買ってきたよ」毎週土曜日、1週間分の食糧を買い出しに行った帰りに父の好きなお菓子を仏壇にお供えする。飴やキャラメル、おせんべい、饅頭、たまに地方のお土産など。まるで子どもの仏壇のようだ。
父が亡くなり、2年余りがたつ。父の逝去を機に我が家に初めて仏壇をおいた。仏壇に毎朝、お水とお茶をお供えするのが私の日課である。近況を報告し、感謝を伝え、手をあわせる。私以外の家族はそれぞれ好きな時に手をあわせている。母は仏壇が届いた時に自分で運ぼうと持ち上げ、ぎっくり腰になった。「ひどいめにあったじゃない!」と仏壇の父に文句を言っていた。弟は、口数は少ないが、父の日や敬老の日、お正月に日本酒をお供えしている。成人した私の息子は来る度に「おじいちゃん、来たよ!」とチーンとならす。それぞれ生前の父との関係がそのままである。
父は膀胱がんを患い、最期はホスピスで過ごした。食べたいものを聞くと、「お菓子があればいい。えへへ」とてれくさそうに言っていた。入院中もおせんべいや甘いものをよく食べ、ホスピスの歌の会で知り合った人にお菓子をくばる社交性も発揮していた。
戦争がもう1年続けば戦場に行っていたかもしれない青年時代を過ごし、食べ盛りのころは三度の食事もままならず、ましてや甘いものを豊富に食べられる時代ではなかった。さぞかしお腹がすいたことだろうと父の若い頃を想像しながら、お菓子をお供えしている。「人生の最期は食料が豊富にありよかった、終わりよければすべてよし」と笑っているようにみえる。
仏壇に手をあわせる時、生き切った父がしっかりと今も家族の中に存在していることを感じる。今は仏壇には父の位牌しかなく、父の人生を物語るものになっている。いずれ他の家族の位牌が加わっていくと、そこにまた一つ人生が重なり、我が家の歴史が続いていくのだろうと想像する。

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