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第12回わが家のお仏壇物語

佳作「お仏壇は母の縁側」増渕明仁(愛知県・54歳)

「えつこ〜、えつこ〜」
生前父は、母の姿が見えないと、いつもきまって縁側から母を呼びました。 一緒にお茶が飲みたくて、好物のきんつばを食べさせたくて、時には、用事がなくても呼んでいました。
やれやれまた呼んでるよ。家族は半分呆れて、半分微笑ましく思って、生活音の一部のように、穏やかな父の声を聞いていたものです。当時、三才だった我が息子も、
「えつこ〜、えつこ〜」
縁側ではそう呼ぶものだと思って、父のトーンをまねては、楽しそうに叫んでいました。
あれから二十五年。父の一周忌も終え、穏やかな父の声を、聞くことのない縁側にも慣れてきた頃、
「ひでおさん、おはよう。ひでおさん、今日のお茶菓子は何がいい?」
やっと元気をとり戻した母が、今度はお仏壇の前に座り、父を呼ぶのです。
あらあら、また呼んでるよ。家族は半分嬉しくて、半分有り難く思って、この優しい生活音が、いつまでも聞けますようにと願うのです。
三才の曽孫は、いつのまにやら母をまねて、自分のおやつを半分っこ、お仏壇にお供えするようになりました。
「ひでおさん、ひでおさん」
母の声がするたびに、きっとお仏壇のむこう側では、
『おいおい、また呼ばれているぞ』
と、父はご先祖さま方にひやかされながらも、温かく送り出されていることでしょう。
お仏壇は、陽だまりに包まれた縁側のように、今日も父と母を繋ぎます。
本当に、本当に有り難いことです。

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