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第15回わが家のお仏壇物語

田中佛檀賞『縁起の仏壇』 田中啓子(三重県・61歳)

 「こういう事は、これから多くなるでしょうね。」と言うと、僧侶は読経を始めた。

 この日、遠方の実家から我が家へ運び入れた仏壇に、夫の菩提寺である御住職が、丁寧に魂入れの儀式をしてくださっているのだ。

 その仏壇は、生前の父が事あるごとに長女の私に、守ってくれと懇願していた物である。二人の娘は共に長男の嫁となり、晩年の父は認知症を患ってもなお、仏壇の安住先ばかりを心配するようになった。

 いよいよ父が亡くなると、私は迅速に実家の処分を進めたものの、仏壇だけは手放すことができずにいた。

 すると、私の心情を察した夫はレンタカーを借りてくると、優に百五十センチはある仏壇を載せて、我が家へと走ったのである。

 また御住職はというと、天台宗にもかかわらず、快く浄土真宗の仏壇に合掌をしながら、核家族や少子化の行く末を案じたのである。

 ところで、居候の仏壇の横には先住の仏壇があり、その仏壇にもエピソードがある。

 実は、夫の前妻の葬儀式を執り行ったのは、当時葬儀会社に勤めていた私である。葬儀後は社の方針で、七日毎に喪家を訪問し、仏前の掃除をして花を供えるのである。夫の場合も然り、この頃の早々に用意された仏壇こそが、先住の仏壇である。

やがて、四十九日法要を終えて故郷へと引っ越していった夫のことは、記憶から消えた。

 それから暫くの月日が経ち、仕事と父の介護に追われる私の前にひょうんなことで夫が再登場すると、父の介護を支えてくれたのだ。

 ある日、私以外に認識ができないはずの父が、「その人と結婚するのか」と笑った。私は驚き頑なに否定した。その時の私は離婚したばかりで、その傷も癒えてなかったのである。

 しかし、寝たきりの父が夫の来訪を楽しみに歓談する日々に私の心はすっかり癒されて、互いの子供らの賛同を得て再婚に至った。

 そして今、子供や孫らは自然に、二つの仏壇に手を合わせているのである。

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