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第15回わが家のお仏壇物語

佳作「お供え物」 細江隆一(岐阜県・54歳)

 父が亡くなって六年が経つ。その間、毎日母は仏壇にまいっている。私も帰省すれば、一日に三回は仏壇に手を合わせている。それが父の供養になれば、という思いで。

 父は突然亡くなったと言って良かった。体調が優れないというので病院で精密検査をしてもらうと、癌がみつかった。手術をするには難しい箇所で、下手をすれば生命に関わるという。

 抗ガン剤を試しに使ってみたが、父の体には合わなかったらしい。激しい副作用が発生し、父は二度と使いたくないと拒否した。その上で私に手を合わせた。

 「最期は自分の家で迎えたいんだ。このまま退院させてくれ」。

 父の言うとおりにするのは苦渋の決断だった。言うとおりにすれば、父の死期を早めてしまうのは確実だったから。が、結果的に私たち家族は父の言うとおりにした。せめてもの親孝行のつもりだった。

 今、仏壇にはお供え物が盛りだくさんである。母がもらったものを全てお供えするからだ。写真に写っているフルーツも、母が知り合いからもらったものだ。

 「自分で買わなくても、お供え物は次から次へとやってくるのよ」。

 父の人望が厚かったおかげで、父のお供えにと、知り合いがもってくるらしい。一人ではなく、何人も、である。有り難いことだと思う。

 花瓶の花は、母が父から受け継いだ庭で育てているもの。父は花壇と畑を母に残していった。母は素人ながら、父の遺産をだめにしてはいけないと、本で学んだり、知り合いから教えてもらったりしながら、花壇には花を、畑には野菜を作り続けている。

 これから何年、同じ生活が続くかはわからないが、父が遺してくれたものを最後までだめにしないようにしたい。それが私たち家族の願いである。

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