仏壇選びの達人

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第15回わが家のお仏壇物語

佳作「ご先祖様を頼む」 熊本県(三重県・70歳)

 家を新築したとき、いちばんの悩みは、父母と暮らしていた家の仏壇をどうするかということであった。

 父母が代々受け継いできた仏壇は、母の死後、古ぼけて色褪せ、何とかしなければならない様相を呈していた。加えて、二人の息子は成長期を迎え、父を交えた五人家族の古い家は、三世代同居の窮屈な家となっていた。「近いうちに家を新築して引っ越しするけん。」恐る恐るそう言うと、「仏壇はどぎゃんするとかい」としかめっ面の父。「よか仏壇ば買(こ)うてご先祖さんは全部持って行くよ」と言うと、安堵したように微笑んだ。

 私たち夫婦と息子二人は無事引っ越し。お寺にお願いして、古い仏壇も丁重に処分した。位牌や過去帳も引っ越したが、父は、母と二人で建てた家と別れがたいのか、そのまま一人で住み続けることを決め、新居で食事をしては古い家に帰るという生活を続けた。

 熱心に朝のお勤めをしていた父は、新しい家に住むこともなく、新築から十二年後、天に召された。日頃から、「ご先祖様を頼む」と言っていた父の毎日のお勤めは、ぐうたらな私ではなく妻に引き継がれ、命日のお勤めや法事も墓の掃除も、怠りなく今に至っている。

 実は、我が家の仏壇の横には一体の仏像が安置されている。祖父が所有していたそうであるが、倉庫におざなりに保管されていたその像を、長女であった母がもらい受け、家の守り神として安置したそうである。妻は「怖い」と言っていたこともあるが、今では、何かにつけ「お守りください」と言っては手を合わせている。

 八畳の広間にある仏壇と仏像。あの熊本地震にも耐え、我が家と家族を見守り続けてくださっていることに感謝し、お茶とお水、御仏飯を供えることが、今では私の毎朝のルーティーンとなっている。

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