仏壇選びの達人

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第17回わが家のお仏壇物語

銅賞「バトンタッチ」井上英敏 (埼玉県・80歳)

 

次男坊の私が仏壇を買う事など、全く想像したこともなかったのだが…。

結婚して丁度1年後に授かった長男が3歳になった時、突然小児がんに冒され、私達夫婦を残したまま旅立ってしまった。しばらくは、急造りの祭壇に安置した小さなお骨を眺めながら、ただ時の過ぎることのみを願う日々を過ごした。

傷心の夫婦にとって、そのお骨を自分達から切り離してお墓に納めることなど、到底出来なかった。二人の出した結論は、生きている限りは手の届くところに安置して、どちらか一方が亡くなる時に一緒の棺に納めようというものだった。

そのお骨を納める為に、それまでは思いもよらなかった仏壇を求めた。骨箱に着せる為、女房は小さな写真を入れるポケット付きのカバーを何枚か裁縫した。夏用は涼しげな浴衣地で、冬用は毛糸編みで作られていた。

お仏壇が来てからは、事あるたびに女房お手製の骨箱カバーに手を添えて、おりんをチンと鳴らすことが習慣となった。何か話しかけたくなった時は、黙って仏壇の前に座ればよかった。骨箱を撫ぜて、おりんをチンと鳴らせば、一瞬でこの世とあの世の敷居が消えた。

お仏壇はこれまで私達と一緒に3回の引っ越しを重ね、47年間の生活を共にしてきた。

その間に、長女が生まれ次男が生まれた。その二人もいつしか私たちを見真似て、お骨に手を添えてはおりんをチンと鳴らすようになった。孫たちも、来れば仏壇に手を合わせ、帰るときは彼らの小さな伯父さんの遺影に目をやり、おりんを鳴らしている。

ある年、年始に訪れた子供たち一家が引き揚げた後の仏壇に、私たち二人へのお年玉のポチ袋を見つけた。以来毎年正月には、子供達から頂いたお年玉に目をやりながら、夭折した小さいままの長男に話しかけている。

「今年も、お前の妹と弟からお年玉をもらったよ!」

それにしても、長い時間が経ったものだ。このお仏壇が、子供達へバトンタッチされる日も遠くない。

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