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第17回わが家のお仏壇物語

佳作「リビングの仏壇」静 春樹 (徳島県・64歳)

古くなった実家を建替えるとき、最後まで揉めたのは仏壇の設置場所だった。

数年前に夫を癌で失い、ただでさえ先祖を敬う気持ちを強めていた母のこだわり。対する私は、この機会に乗じて家そのものをモダン、かつ快適に過ごせる空間にチェンジしたいと考えていた。我が家に残された二人、ある意味ぶつかり合うのは当然であったろう。

母は機先を制するように、家がまだ設計の段階から実に立派な仏壇を注文したのだ。

「一体いくらしたの? それに、どこに置く気よ?」と首を傾げる私に、

「いいの、御先祖さまが喜んでくだされば・・・あたしは欲しいものを我慢しても生きていけるから」と、母は年金生活者にも関わらず自信たっぷりに言い放つものだから取り付く島もない。

私は、新たなリビングの中心には大型テレビを据えたかった。大型テレビを軸にL字型のソファで周辺を飾りたかった。実際、スペースも早くから確保していたつもりだ。

なのに、母はそのスペースを仏壇にすると言って絶対に譲らない。頑なな、そんな母の姿を見るのは、生まれて初めてだった。よほどの思いが籠められているに違いない、そう痛感して、最終的には私が折れる形で数カ月に渡って繰り広げられたこの問題は決着した。

思えば、どんな時も自分を犠牲にして家族を守ってくれた母。月並みな表現かも知れないが、とびきり明るく、家庭に溢れんばかりの笑顔を振り撒いてくれたのは常に母の存在だったことは否めない。

今、そんな母も位牌になって、あれほど大事にしていた父やご先祖さま方と同じ仏壇の中に納まっている。

あのとき、リビングの中心に大型テレビではなく、仏壇を据えて本当に良かった。

毎朝、仏壇の前に鎮座し、お線香を捧げる習慣から私の一日は始まるのだ。

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