専門紙「月刊宗教工芸新聞」が提供する
仏壇と仏壇店情報
第17回わが家のお仏壇物語
毎年、八月のお盆になると、故郷を離れ、街で暮らす兄や姉達が、誰も住んでいない山奥の故郷の家に帰省し、ご先祖様の供養をする。故郷の我が家は百年以上も続く古い木造建築だが、昔ながらの工法で作られた箇所が至る所に見られ、大黒柱など丈夫で年月を彷彿とさせる漆黒に輝いている。
父母はすでに他界し、古民家を湿度から守り保存する為や、代々から続くご先祖様の供養の為、仏壇にお供えする花芝や、神様の釈迦木の水替えに一週間に一度、長男の兄が帰省している。
盆には庭に迎え火を焚き、近くの墓所からのご先祖様をお迎えし、百年以上も続く先祖代々の仏壇の前にテーブルを設置し、兄弟家族一同が揃って食事を頂く。仏壇の周りには、盆提灯の回転灯をつけて昔からずっと変わりなく続く盆古来の風情の中で、ご先祖様の思い出などを語り合う。
日頃は街で暮らす雑踏の中の忙しない日々を送っているだけだが、年に一度だけ静かな故郷の自然の中での兄弟同士で語り合う束の間の憩いには何にも代え難いものがある。仏壇の前に正座するたびに、生前父母がこの仏壇の前で手を合わせていた後ろ姿が目に浮かんでくる。それは懐かしくもあり、年老いた父母の背中を思い出すたびに、私達を育ててくれた労苦に感謝の念を抱く。その姿はもう古いアルバムの中でしか見られなくなったが、ご先祖様を人一倍大事にして来た父母だけに、その思いは残された者達が受け継いで行かなければと肝に銘じている。
山の中の故郷は高齢化が進み、空き家化も進んでいる。古い故郷の家を捨てて、街へ移住する人達が増える中、その一例の我が家ではあるが、先祖代々の墓や、神仏を祀る祭壇を、この先もずっと守り続け、後継へと繋ぐ思いを大切にしていかなければと願っている。いつの日にか又、その道筋がアルバムの中に見えて来る事を楽しみにしている。