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第17回わが家のお仏壇物語

八田神仏具店賞「息子たちのために」星川千里 (愛知県・76歳)

六歳まで住んだ実家にある仏壇は、襖二枚分の大きさがあった。後から考えてみると、普通の田舎家に置くものにしては、不釣り合いな感じがしないでもない。

とは言え年に数回、我が家を訪れるお寺の住職は、

「こんなに立派なものには、この辺りではなかなかお目にかかれません」

とお経が始まる前にいつも口にするので、子供のころは少々鼻が高くなったことを覚えている。

父の転勤で実家を離れた後も何回か帰郷していたが、ある時仏壇の奥に古い二枚の便せんを見つけた。茶色く変色した紙には、ふるえる文字で病の苦しみと、死に向かう恐怖が綿々と綴られている。

祖父母には四人の息子と二人の娘がいたが、息子たちはすべて結核で亡くなっていたことは知っていた。だからその一人が書いたものにちがいない。あわてて祖母に見せると、祖母は大きくため息をついて、ゆっくり話し始めた。

昔は不治の病と言われた結核。先祖から引き継いだ財産のほとんどを費やし、温泉地などで世話係をつけ療養させたが、結局死なせてしまった。

そのうえ十六、七歳で死を目前にした息子たちの無念さを文字からも知った時は、身を切られる思いだったのだろう。悲嘆のあまり祖父は、精神的なものからくる心臓発作に長く苦しめられたらしい。だからこそ有金をはたいて、四人のために納得のいく仏壇を求めたというのだ。

穏やかな笑みを浮かべ、静かに老後を過ごしていた祖父母の、苦しみ抜いた当時の心境を思うと、とても切ない。

あれから五十年。思いのこもった仏壇の中にいる、顔も知らない伯父たちの冥福を、今は亡き祖父母、父母と共に心から祈るようにしている。

 

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