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仏壇と仏壇店情報

第17回わが家のお仏壇物語

佳作「山桜のお仏壇」建内真由子 (新潟県・41歳)

「いつか死ぬときは、桜の季節がいいなあ」ロマンチストだった父は、まだ若く健康だった頃からよくそう言っていた。桜の花の凛とした美しさと、潔く散る姿を心から愛していたのだ。そんな父が十年前、六十四歳で突然の病に倒れ、三カ月間の闘病の末に亡くなった。まさに桜のように、あっという間に居なくなってしまった。季節は初夏だった。

我が家の小さなお仏壇は、その時にご近所の仏壇店で作っていただいたものだ。四十九日が過ぎたころ、母と二人でお店まで相談に行った。いつでも近くに父を感じられるように、リビングに置けるシンプルなものをお願いした。店の奥で見本品を見ながらお仏壇のサイズや形を決める。そのあと、「木は、何になさいますか?」と店主が尋ねた。聞けば、こういったお仏壇に使われる木の種類はいくつかあるらしい。店主はサンプルの木片を出してきてくれた。「こちらが、ケヤキ。こちらが、ヒノキ。そしてこちらが、山桜。」

山桜!それを聞いた瞬間、私は思わず「それにしてください」と言っていた。桜が大好きだった父にぴったりだと思ったのだ。母も気に入って賛成したので、そのまま山桜で注文することになった。桜を見ながら人生を終えるという父の叶わなかった思いが、ほんの少しだけ報われるような気がした。突然の別れに呆然自失としていた心に、ようやく小さな明かりが灯った。

それから数カ月の制作期間を経て、完成したものが我が家のリビングに納められた。父のお仏壇は優しい飴色をしていた。それは陽の光を浴びて伸びやかに立つ山桜の幹を思わせた。父が満開の桜の下で笑っているのが見えたような気がした。

 

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