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第3回わが家のお仏壇物語

金賞「缶ビール」大家 弘己(石川県・23歳)


父が他界したのはもう十年以上も前の事で、僕はまだ小学六年生だった。死後仏壇の前に座る機会はもちろん多々あったし、幼かった時から、仏壇前でよく近況報告のような事をしていたのを覚えている。

そんな僕ももう二十三歳になり、今年の正月開け、帰省していた僕はその日のんびりと昼過ぎまで眠り、誰もいないらしい実家のほの暗い居間で石油ストーブの灯りだけで昨日の残り物を適当に食べた。何気なくふと仏壇に目をやると、毎年の正月に母は仏壇の前に缶ビールを置いているらしく、その缶が仏壇の前に寂しそうに残っているのを見つけた。僕は、「一度も父さんとお酒を酌み交わせんかったな」とふと思い、冷蔵庫からビールを持って仏壇の前にあぐらをかき、そそくさと線香をあげた後、父の分と自分の分の缶ビールのフタを開け、「乾杯」と静かに缶を合わせ、二、三口ほどぐぐっと呑んだ。

かつてこんなことは体験した事がなかった。とめどなく目から頬をつたって涙がこぼれてくるのだ。その涙は自分のものとは思えないような涙、ただただ溢れ出す涙だった。しかもそれは悲しいのではなく、心からの喜びだった。泣きながら、強がるように無理矢理ビールを口に含み、あることないことを仏壇の前で素直に父に話した。

どれぐらい経ったのかは自分でも覚えていない。自分の缶を飲み干した後、自然に口から「父さん、ありがとう」という言葉が出た。その直後、触れてもいないのに仏壇の横からカタッ、と何かの音がしたのだ。何故だかそのときはその出来事を驚かずに受け入れられた、まるでいつも遠くから見守られているように感じたのだ。

この話はまるで嘘のような話。他の人には理解出来ないかも知れない。でも僕はこれから大きな壁にぶつかったとき、どうしようもない悩みが出来たときは、また仏壇の前でほんの少し、父とお酒を酌み交わしたいと思っている。

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