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第3回わが家のお仏壇物語

佳作「妖怪の館」陶山 良子(福岡県・63歳)

お盆に娘一家が転勤先の高知から帰省した。  
一歳五カ月の赤ちゃんを連れて初めての里帰りに、私も張り切った。 夜具を整え、シーツと枕カバーを新調。座敷・仏壇と掃除してご先祖様に、久方ぶりの泊りの客人を迎える報告をした。  
 夕食の楽しい団欒も風呂もすんで、仏壇のある座敷で、娘夫婦は「おやすみなさい」と眠りについたが、赤ちゃんの夜泣きがなかなか治まらず、娘は婿殿に気を使って離れの私の寝室に赤ちゃんを連れてきた。ここなら多少の泣き声は夜中でも心配ない。
 草木も眠る丑三つ時。婿殿が深い眠りをむさぼっていると、柱にかかっている古時計が一つ、カーンー。 (ん? 今の音は仏壇の、おりんではなかったか)  寝ぼけてぼんやり考えていると枕元の襖が、スーッと音もなく開いた。
「うわー」
 いいようのない不安に襲われ、怖くて目が開けられずにいると、今度は仏壇に供えてあるコップから、「ピチャピチャ」と水を飲む音が聞こえる。心臓の音が高まり今にも破裂しそうだ。  音がするほうを、目を開けて確かめる勇気もなく寝たふりをする。 妻を呼びに立ちあがることも出来ず、我慢をしていると今度は、足元に生温かいものが、音もなくすり寄ってきた。 究極の恐怖は頭の方から顔を覗き込まれた。
 悲鳴を上げる寸前、目を開けたら飼い猫と目があったと、穏やかな婿殿は作り笑いをしながら昨夜の報告をした。
「うちの猫はお行儀がよくて、両手で音もなく襖をあけるのよ。知らない人が寝ていると顔をのぞきにいくの。そして、仏壇の水をいつも頂いているの」と、私。
「でも襖は全部しまっておりました。猫は開けて閉めたのでしょうか」  怪訝そうに言う婿殿に、「さあ、どうしてでしょう」と微笑む私のそばで、「今晩も遠慮なく泊まりなさい」と夫も怪しく微笑む。  妖怪の館は一晩でおゆるしください。といわんばかりに婿殿は早々と高知へ帰って行った。
 来年も皆でお待ちしていますわ……

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