仏壇選びの達人

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第3回わが家のお仏壇物語

選外秀作「暮らしのなかにある仏壇」棚橋すみえ(高知県・61歳)


私が物心ついたころには、我家には既に仏壇があった。「それなに?」と問い掛ける私に母は「あんたのお父ちゃんの家よね」と笑って応えていたものだ。 「結婚して十八年目にやっとあんたが生まれたがやにお父ちゃん百日見ただけで死んでしもうた。なんぼか心残りやったろうぞね」。  炊きたての御飯と一番茶を供えながら、母は何度も何度も私にこう話してくれた。  そう、母は必ず毎日朝晩、仏壇の前に座り手を合わせていた。「こうしているときが一番落ち着くきね」と言いながら……。

勿論、私もそんな母と共に幼いころからずっと仏壇の前に座り、一応手を合わせていた。  けれど、今思えば顔すら憶えていない父に対して、私は心から祈っていなかった気がする。そう、私が心の底から祈り出したのは母が逝ってからだと思う。

最後まで働き詰めだった母が脳梗塞で倒れ、たった一週間で父の待つ黄泉の国に旅立って早十八年−−。「私がのうなったらもうちょっと大きい仏壇にしてや」と言い遺した母の願い通り、一回り大きくはなったが、あのころと同じ場所にある我家の仏壇はこのごろなんだか賑わっている。  まず、私が炊きたての御飯と一番茶を供え手を合わせる。その後、夫がいつの間にか自然に頭に浮かぶようになったという般若心経を唱えては合掌−−。  二女は自分が落ち込んだりしたら、すぐ仏壇の前に座り「おばあちゃん聞いてや」と語り掛けているようだ。結婚して家を出た長女も帰って来ると、まず仏壇に手を合わせ「おばあちゃんただいま」と言っている。 そして、きわめつけは昨年二月に生まれた初孫だ。見よう見まねで仏壇の前に座り、手を合わせ頭を垂れていたのだ。

この姿には、仏壇の向こう側で見ているだろう母もきっと胸を熱くしていることだろう。

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