専門紙「月刊宗教工芸新聞」が提供する
仏壇と仏壇店情報
第4回わが家のお仏壇物語
我が家の主人は全くお酒が飲めません。長男でひとり息子だから私がお嫁にくる前は、父と母との三人暮らしだったのです。お酒が大好きな父は、どうにかして息子を酒飲みに仕立て上げようかと日夜努力したそうです。しかし、主人に言わせるとアルコール分解酵素がそもそも体内に無いのだから無理に飲むと死んでしまうそうなんです。 そう言われたら父も躊躇してしまうのでした。
結婚して二年目の秋に突然母が倒れて呆気なく亡くなってしまうと、父の日課は一升瓶をかかえて仏壇の前に座る事だけになったのです。母との晩酌が一番の楽しみだったのでしょう。 「親父、ご飯だから。」そう呼ぶ主人の声にも無反応になって来たある日、私が決意しなくっちゃ、と。 そうなんです。飲めない家系に生まれた訳ではないのです。黙っていた事は悪いのですが、私は飲める女だったのです。 「お父さん!一緒に飲みましょう!」 その日から二人の酒宴は毎日楽しく盛り上がっていくばかりでした。「お父さん、ワイン飲みましょ!」 洋食にはワインの選定で二人が悩みながら楽しんでいました。主人も開放されたみたいで「こっちが娘で俺は婿みたいだな!」と笑っていました。
日本酒党だった父をワイン党にと鞍替えさせた私は毎日のワイン選びが楽しくてたまりませんでした。 そんなある年のお正月。父も突然帰らぬ人になってしまったのです。 「注文してた白ワインが届いたよ。一緒に飲むよ。」 最近の私の夕食は仏壇の前でワインのティスティングから始まります。 「さ、お父さん!どっちが美味しい?」 背中越しに主人のヤキモチ視線が仏壇に突き刺さります。悔しかったら飲んでみたらいい。そう仏壇の中から父が言っているように聞こえてきています。