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第4回わが家のお仏壇物語

佳作「父の一言から30年」山村 信嗣(高知県・39歳)

『夏のボーナスは無いから』
 父が母に言った一言を聞いたのは、私が小学校3年生の時。父の言葉の真相は、夏のボーナスで仏壇を買う、既に予約もしてきたでした。  母は反対も怒りもせず、その夏我が家に仏壇が届きました。当時は何も思いませんでしたが、今考えるとボーナス日に仏壇を買う、しかも商談済みだといきなり切り出されたら大抵の場合夫婦喧嘩ですよね。そうならなかったのは、普段からお酒、タバコ、ギャンブルはやらず、仕事を終えると真直ぐに家に帰り家族との時間を大切にする父の人柄があったからだと思います。
 家に仏壇が来てからは、不謹慎ですが子供心に鐘や木魚がとても面白く感じ、弟と妹と3人で鐘を『チーン、チーン』木魚を『ポク、ポク』鳴らして遊んでいました。仏具を遊び道具にしている私達の横で、父は仏壇の掃除をしながら何も言わず微笑んでいたのを覚えています。  笑っている理由を尋ねませんでしたが、父の性格だと『仏壇の前で子供が賑やかな方が、ご先祖様も喜ぶ』と思ったのではないでしょうか。
 月日が流れ、私にも家庭ができ実家と離れた場所で生活していますが、実家に帰った時には、あの夏、父の一言で我が家に来た仏壇に手を合わせています。その横で二人の子供は、私が子供の頃と同じように、仏壇の前で鐘と木魚で遊んでいます。
 私もあの時の父と同じように、仏具で遊ぶ子供達を叱りません。なぜなら、『仏壇の前で孫が賑やかな方が、父も喜ぶ』と思うからです。父は私が中学の頃に亡くなり、私達兄弟の成長や孫の顔を見る事ができませんでしたが、父の一言から30年後の今も仏壇の前が賑やかな事に父は微笑んでいるはずです。

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