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第4回わが家のお仏壇物語

佳作「戸籍で会ったおじいちゃん」山根 裕博(千葉県・46歳)


 我が家の仏壇には、四柱の位牌がある。  そのうち一人は平成3年に僕に対して「努力しなさい」 といって亡くなった全盲の祖母である。  その他の3人は、父の妹で享年1歳の人、父が14歳の時に亡くなった、父にとっての父すなわち自分の祖父、そして、父が1歳の時に亡くなった父にとっての祖父自分にとっての曾祖父である。
 30年ほど前、自分は自分の先祖について質問し父を悩ませた。  父は父にも記憶のない曾祖父まで遡るだけでも大変だったが、いろいろと手を尽くして、曾祖父が戸主となっている戸籍を見つけだしてくれた。  自分がそのときの父の年齢になった今、もう一度その戸籍を読み込んでみた。子供のときにはほとんど読めなかったが今では不鮮明でもかなり読める。  多少色あせているものの、この戸籍は唯一残された我が家の宝だ。
 戸籍には、いつ生まれていつ死んだ、くらいしか書いていない。どんな人生を歩んできたかは行間を想像するしかない。そこにはただ現実が冷たく記載されているだけだ。  8人いた子供の出生届、夭折した三男の死亡届けもはずすことなくすべて祖父が行ってきた。しかし、末っ子が夭折したときは祖母が届けている。そのとき祖父自身が天に召されていたからだ。1年と置かずに失った、伴侶と末っ子。祖母はどんな気持ちだったのだろう。もうそのころには、目の病気がどんどん進んでほとんど見ることができなかったはずだ。  これほど絶望的なことがあるだろうか。
 ああ、おばあちゃん。おばあちゃんのつらかった話をなんで聞いてあげられなかったのだろう。孫であるぼくに話せば、つらい過去もいくらかは癒えたであろうに。  おばあちゃんは、他の三柱の人たちと僕たちをむすぶ唯一のひとだったんだね。でもそれ以来、位牌の数が増えていないのは仏様に感謝しなきゃね。

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