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第4回わが家のお仏壇物語

佳作「血族」渡会 克男(千葉県・62歳)


不慮の事故で父が他界して、一年程経ったある日、二人の見知らぬ男が訪ねて来て、仏壇の前に正座して号泣した。 「せっかく戦争で生き残ったのに――」
 戦時中、中国大陸で父に命を助けられたのだという。 「敵兵に取り囲まれた私達を見て、お父上はトラックで突入して来たんです。危機一髪、窮地を脱することが出来たのですが、フロントの窓を貫通して弾がお父上の胸に当たりましてね」 「幸運にも、首からぶら下げていた守り袋の中に木のお札が入っていて、命拾いしたんですよ」 母が仏壇の引き出しから、色褪せ、古びた袋を取り出す。 「これですね」 すると、二人の男はなお一層涙が止まらなくなった。 守り袋の中には母が戦地に送った一通の葉書きも畳んで入れられていて、それにはたった一言『アナタ』と書かれ、『ナ』の字の横に焦げたような跡が残っていた。  
 仏壇の前に座ると、私は『血族』という言葉を思い出す。 思春期の頃、私は父が嫌いで反抗の限りを尽くした。小心者の父の血が自分にも流れているかと思うと、安煙草の臭いが染みついた父の体臭にまでイラついたものだ。 けれど、いつの間にか私は父の遺影とそっくりになっている。 ……私の死後、はたして我が家の仏壇の前に座して、家族、血族以外で涙してくれる者がいるだろうかと想像するとき、私は自分が父の子であって良かったとしみじみ思う。

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