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第4回わが家のお仏壇物語

佳作「お仏壇を囲んで」渡部 正剛(東京都・74歳)


横浜にある妻の実家の宗派は真言宗である。日頃は99歳になる母が「南無大師金剛遍照」と真言を唱えながら仏壇を守っている。
 母には4人の子供がいる。それぞれ所帯をもって比較的近くに住んでいるので、正月だ、母の日だ、お盆だ、お彼岸だ、誕生会だと言っては実家に集まって食事を楽しんでいる。そんな折の仕切り役は今でも大抵母である。
 座が盛り上がるのは母の思い出話である。母の子供の頃の話に始まり、嫁いで来た頃の様子、舅のこと、近郷近在の暮らし振り、はたまた先の大戦中の苦労話、関東大震災時の酷い話など話題は歴史をどんどん遡ってゆく。家系に出てくる先祖の記憶が怪しくなるとうやうやしく仏壇から「過去帳」を拝借しては先祖の人物評に熱が入る。われわれも先祖の生業や人となりに関心があり、往時の世相を推測しながら語り合っているうちに話題はいつの間にか日本の歴史鼎談にそれることもしばしばである。
 過去帳をめくっていくと最も古い先祖の記録は甚衛門の父、正徳5年(1715年)10月17日亡、戒名「大楽院天額利道居士」とある。  前年の正徳4年には五代将軍綱吉に仕えた柳沢吉保が亡くなり、同じ年に思想学者の貝原益軒が亡くなっている。その時代にわが先祖もひとりの市民として暮らしを立てていたと思うと不思議な縁を感じる。
 実家の血脈が300年の長きにわたって受け継がれていることは大きな驚きであり、誇らしくも思えてくる。御仏のご加護の賜物だと信じている。

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