専門紙「月刊宗教工芸新聞」が提供する
仏壇と仏壇店情報
第16回わが家のお仏壇物語
母一人、子一人。母が亡くなり、もうすぐ6年になる。
母は塗装職人で、女手一つでぼくを育ててくれた。なぜぼくには父がいないのか、最後まで聞けなかった。
母が脳こうそくで倒れたとき、ぼくは高校3年生で、受験勉強の真っ最中。
大学進学をあきらめて、母に弟子入りしたときは、ほとんど勢いだった。迷いはあったけど、お客さんや取引先に迷惑はかけられないので、無我夢中で仕事を覚えた。母はマヒが残る身体で、ぼくに厳しく指導してくれた。いま思えば、自分の死期を察していたのかもしれない。
そして、二度目の脳こうそくで母は他界した。
ぼくは子どものころ、母を恥ずかしいと思っていた。いつも作業服を着て、ぼさぼさの髪をヘルメットで隠し、オシャレとは無縁。自宅の玄関はシンナー臭く、友だちを呼ぶこともできない。参観日にも来てほしくなかった。
小学校最後の参観日のプリントを母に渡さなかったことは、いまも激しく後悔している。
母の悲しそうな顔が、脳裏から離れない。
母がどれほど苦労してぼくを育ててくれたのか、わかっていたのに反抗していた。
胸が締め付けられる。
毎日仏壇に手を合わせて母に謝っているが、届いているのだろうか?
母の仕事を引き継いだことで、こんなぼくも少しは存在価値があるかな。
最近、同業のベテラン職人が、ぼくに親切にしてくれる。工期がせまっているとき、自分の仕事そっちのけで手伝ってくれた。むかし世話になったと、母の仏壇にお線香をあげてお花を添えた。
もしかして、ぼくのお父さん?
冗談です。
少し本気だけど、冗談です。
今度一緒に飲む約束をしたので、聞いてみようかな。
仏壇の前で飲むので、お母ちゃんも一緒だよ。
お母ちゃん、聞いてもいいですか?