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第16回わが家のお仏壇物語

銅賞「仏壇と問わず語り」 角谷茉飛路(北海道・24歳)

 母一人、子一人。母が亡くなり、もうすぐ6年になる。

母は塗装職人で、女手一つでぼくを育ててくれた。なぜぼくには父がいないのか、最後まで聞けなかった。

 母が脳こうそくで倒れたとき、ぼくは高校3年生で、受験勉強の真っ最中。

 大学進学をあきらめて、母に弟子入りしたときは、ほとんど勢いだった。迷いはあったけど、お客さんや取引先に迷惑はかけられないので、無我夢中で仕事を覚えた。母はマヒが残る身体で、ぼくに厳しく指導してくれた。いま思えば、自分の死期を察していたのかもしれない。

 そして、二度目の脳こうそくで母は他界した。

 ぼくは子どものころ、母を恥ずかしいと思っていた。いつも作業服を着て、ぼさぼさの髪をヘルメットで隠し、オシャレとは無縁。自宅の玄関はシンナー臭く、友だちを呼ぶこともできない。参観日にも来てほしくなかった。

 小学校最後の参観日のプリントを母に渡さなかったことは、いまも激しく後悔している。

 母の悲しそうな顔が、脳裏から離れない。

 母がどれほど苦労してぼくを育ててくれたのか、わかっていたのに反抗していた。

 胸が締め付けられる。

 毎日仏壇に手を合わせて母に謝っているが、届いているのだろうか?

 母の仕事を引き継いだことで、こんなぼくも少しは存在価値があるかな。

 最近、同業のベテラン職人が、ぼくに親切にしてくれる。工期がせまっているとき、自分の仕事そっちのけで手伝ってくれた。むかし世話になったと、母の仏壇にお線香をあげてお花を添えた。

 もしかして、ぼくのお父さん?

 冗談です。

 少し本気だけど、冗談です。

 今度一緒に飲む約束をしたので、聞いてみようかな。

 仏壇の前で飲むので、お母ちゃんも一緒だよ。

 お母ちゃん、聞いてもいいですか?

仏壇公正取引協議会
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