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第16回わが家のお仏壇物語

田中佛檀賞「仏壇は、父と母のやり直しの場所」 有城佳音(兵庫県・56歳)

 父母は長子ではなかったから、仏壇は遠いものだった。しかし俺は一人っ子で、母が亡くなったとき、小さな仏壇を置くことになった。

 ここまでは特に問題はなかった。しかし問題は父が亡くなったときだ。

 父は破天荒な人で、家に帰ってこない謎の人だった。俺も母も特に気にすることなくふたりで楽しく生きてきた。

 しかし、父にはもうひとつ家庭があり、そこでマイホームパパをやって、ふたりの子供を持ち、孫までいることが発覚した。

 母も亡くなり、俺も50歳を過ぎているから、特に問題にはならなかったが、母は何も知らないままなのだ。そんな父を同じ仏壇に入れていいのだろうか? 

 しかし父の葬儀のあと、問題はそこではなくなる。

 現実問題として、父はその家庭で義妹と孫たちと暮らし、父の所持品はすべてそこにあり、義妹は父親っ子で父の死を最も哀しんでいるのだ。

 何が正しいのかはわからないが、位牌を抱いている義妹から取り上げることはできない。父は母を裏切り続けていたのだから仕方がない。と自分を納得させた。

 しかし父と母は仲が悪いわけではなかった。母は我儘で、父は自分勝手だった。一緒に暮らすと三日もたないが、たまにならばとても仲が良かった。  

 母は晩年、最後に父と暮らしたいと耳を疑うことを言って死んでいき、父も母の死後、母が「淋しがる」と、死ぬ直前まで毎日、母の墓前に通った。息子としては予期せぬ展開で、父母のその最後の思いが引っかかり続けた。

 一周忌がすぎ、せめて二人を仏壇のなかで一緒にしてあげようと思った。

 妻がアルバムから写真を探していると、一枚の写真がほらっと落ちてきた。

「お母さん、この写真がいいって言ってるのよ」

 出会ったころの写真だった。

 自分たちよりずっと若い父母たちに「色々あるだろうけど、ふたりで力を合わせて頑張るんだよ」と親のような気持ちになって、母の仏壇のなかに父を戻してあげた。

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