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第16回わが家のお仏壇物語

八田神仏具店賞「壊れそうな心を支えた祈り」 伊吉奈都紀(愛知県・33歳)

 癌を告知された。32歳。子どもは1歳になったばかりだった。

 自覚症状は全くなく、何かの間違いだと思った。育休から復帰したばかりの職場でも少しずつ仕事を任せてもらい、楽しいときだった。理由などないのに、どうして、なんでと考えずにはいられなかった。どのような治療をするのか、これからどうなってしまうのか、私は子どもの成長をいつまで見られるのか。無邪気に遊ぶ子どもの姿を見ているとふいに涙があふれ、子は戸惑った表情を浮かべた。

 遠方に住む大好きな祖母には心配をかけたくなくて黙っていた。忙しいだろうから、と滅多に電話などかけてこない祖母が、突然電話をかけてきた。「元気か」と尋ねる優しい声に嘘はつけなかった。

「おばあちゃんにできることは祈ることだけだから、毎日仏様に手を合わせています、大丈夫よ。」1週間後、メッセージが来た。涙が止まらなかった。再発するかどうか、長く生きられるかどうかは誰にもわからない。「祈ることしかできない」と祖母はこぼしたが、祈ってもらうことが私には一番ありがたかった。ちょっとしたことで心がカシャンと音を立てて壊れてしまいそうなギリギリの精神状態の中、誰かが自分のために祈ってくれているという事実だけが私を支えていた。

祖母の家には立派な仏壇がある。毎日花とお仏供(おぶく)さんをお供えし、お参りを欠かさない。祖母のそういう習慣が、そこに大好きだった祖父がいるように感じさせるから、私は祖母の家に行くと必ず仏壇に手をあわせる。温厚で子どもが大好きだった祖父は、おりんを何度も鳴らすひ孫を空から微笑ましく見ているに違いない。今度、仏壇に手を合わせたら、まずは無事に初期治療が終わったお礼を伝えるつもりだ。

 おじいちゃん、私まだそっちには行けないのよ。どうか、守っていてね。

仏壇公正取引協議会
祈ってみよう、大切な誰かのために。PRAY for (ONE)