仏壇選びの達人

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第16回わが家のお仏壇物語

佳作「特別なお⼿伝い」 牧 瞳(東京都・23歳)

「仏壇磨き」が私のお仏壇の思い出だ。

 私が⽣まれてわずかで病床の祖⽗がこの世を去ったため、祖⽗との思い出がない。それ故、私は⽣粋のおばあちゃん⼦だ。幼い頃は隣の祖⺟の家に毎⽇顔を出し、おやつをもらったりおしゃべりしたりしていた。

 お盆前になると祖⺟は必ず仏壇磨きをする。いつもの掃除よりも⼤掛かりなので、幼い私も⼿伝っていた。

 真鍮でできた仏具を⼀つ⼀つ取り外し、洗浄剤と⽔に浸す。汚れをふきんで拭き取る。最後まで懸命に磨くと、ふきんも⼿も汚れで緑⻘になっていた。

 誇らしげに⼿を⾒せると、同じように緑⻘の⼿をした祖⺟が「かたい(お利⼝な)⼦やね」と笑った。

 磨く前はそんなに汚れているようには⾒えないが、終わると⾒違えるほど艶が出て仏壇全体が明るくなった。

「じいちゃんは⽣まれたてのあんたの顔を⾒て安⼼して逝ったがよ」

「⼤きい⼦や、って笑っとった」

 祖⺟は磨きながら私の知らない祖⽗のことをよく話した。

 ほかにも祖⺟の傍でいろんなお⼿伝いをしてきたが、祖⽗の話をしてくれる仏壇磨きはちょっと特別で何気に好きだったのだ。祖⽗との記憶はなくとも、祖⺟と⼀緒に祖⽗のことを想っていた時間が私にはある。

 地元を離れてから、私が祖⺟と仏壇磨きをすることはなくなってしまった。祖⺟も最近は体⼒的に磨くことができていないのではないかと思う。

 帰省して改まって「仏壇磨きしたい」と⾔ったら祖⺟はどんな顔をするだろうか。

 仏壇の前で「じいちゃん、かたい⼦帰ってきた」と笑うかもしれない。

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