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仏壇と仏壇店情報
第16回わが家のお仏壇物語
今から5年前。父が病死してから一人暮らしをしていた母が、85歳で他界した。
子どもは私と妹だけだったが、2人とも嫁いでしまった。実家の跡継ぎが誰もいない状況で、先祖祭りをどうするか悩んでいたところ、夫の提案で、我が家に手元仏壇を置いて供養することになった。
晩年の父と母は、早く曾孫が抱けることを楽しみに待っていた。
私には、蒼、茜という名前の2人の孫がいる。6歳の男の子と2歳の女の子だ。父は残念ながら曾孫を見られなかった。母は初曾孫の蒼が誕生した時は存命だったが、2人目の茜は間に合わなかった。
今年のお正月に東京在住の息子家族が帰省した時のこと。
勝手知ったる蒼が真っ先に仏壇の前に座り、電気をつけ、私が火をつけたお線香を香炉に立ててから楽しそうに何度も何度もリンを鳴らし、手を合わせて深々と頭を下げた。
その時、1年前の帰省時には何の興味も示さなかった茜が蒼の傍に駆け寄り、横に座った。
「兄ちゃん、これは何?」
仏壇を指さしながら問いかける茜に、蒼は得意げに答えた。
「この中には、ボクと茜の、ひいじいちゃんと、ひいばあちゃんがいるんだ」
すると茜は、膝を立ててズズズーっと仏壇に近寄り、中をぐるぐる見渡しながら、ご本尊様や位牌の裏側も不思議そうに覗いている。そして仏壇に向かって、大声で呼びかけた。
「ひいじいちゃ~ん、ひいばあちゃ~ん、もう いいよ~」
どうやら茜は、ひいじいちゃんと、ひいばあちゃんと、かくれんぼをしているつもりになっているらしい。
蒼はケラケラ笑いながら、茜に言った。
「ひいじいちゃんと、ひいばあちゃんは、透明人間になっちゃったんだよ。だから、こっちから姿は見えないけど、あっちからは、ボクと茜のことが見えてるんだ」
幼い2人のやり取りに、私は思わず吹き出した。仏壇の中に隠れていたご先祖様たちも、子どもたちの元気な声を聞いて、みんな出てきてくれたに違いない。