専門紙「月刊宗教工芸新聞」が提供する
仏壇と仏壇店情報
第16回わが家のお仏壇物語
市内の実家で母と同じ時を過ごしてきた仏様。母の施設入所が決まり、当主の私が引き取ることになりました。
高台にあるわが家では、数年前に和室の押入れを仏間に改修しましたが、大工仕事だけでまだ扉はありません。私は残してあった押入れ襖を引っ張り出し、寸法どおり切っては市販の襖紙を貼り、大急ぎで扉を作って体裁を整えました。
次は実家の仏壇。小ぶりの黒塗りですが、時の経過で傷みがひどく修復もできません。私は街の仏壇店へ急ぎました。
妻と店内の展示を巡りながら、かつて子ども心に実家の黒くて古い仏壇が怖く、近づきづらかったのを思い返していました。
「これ、明るくて素敵」
唐突に妻が推したのは、ベージュの家具調タイプです。
「うちのと全然違うぅ」
色を失う私に、店主が応じます。
「今はこういうモダンなのも人気です。お部屋を選ばず、都会のマンションにも置けますよ」
(都会の、マンションか)
時勢の変わりように驚く一方で、東京で暮らす息子を想うと他人事ではありませんでした。結局はそれで決まり。経机も仏具もすべて今風でそろえました。御本尊と御位牌の修復も併せて依頼。お寺様の性根抜きが終わると、古い仏壇は引き取られました。
それからひと月後、自宅に真新しい仏壇が届きました。すっきりした都市型ですが、和室の仏間に置いても違和感はありません。輝きを増した御本尊と御位牌を安置して仏具を据えると、新調した畳や急ごしらえの扉とも合っていい感じでした。
後日、お寺様の性根入れが終わり、仏様のお引っ越しは無事に完了しました。初めてわが家にお迎えした小さなお寺、仏壇に魂が入った瞬間でした。
身近におわす仏様。居住まいを新たにされ、仏様も心なしかうれしそうです。身近さは心の距離も縮めたのか、気がつけば仏前で合掌し感謝するのが当たり前の日常となっていました。その魂は、施設で暮らす母共々、家族の心に寄り添いながら温もりを届けてくれています。